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東京地方裁判所 平成2年(ワ)16101号 判決 1993年12月07日

原告

岡田由美子

被告

財団法人日本消費者協会

右代表者理事

杉原栄次郎

右訴訟代理人弁護士

白井正明

白井典子

主文

原告の解雇無効確認の訴えを却下する。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対してなした解雇(以下「本件解雇処分」という。)及び平成元年一二月七日付懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇処分」という。)の無効であることを確認する。

二  原告が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

三  被告は原告に対し、平成元年一月一二日から本案判決に至るまで給与規定上定められた本俸・手当て・通勤費・賞与等を他の職員と同一条件で支払え。

四  被告は原告に対し、原告が平成元年一二月から本案判決に至るまでの間、厚生年金・失業保険等の被保険者の資格を失わない措置をなせ。

五  被告は原告に対し、原告の専門を尊重し、主として消費者教育・消費者相談・消費者被害の防止をなす業務に就労させ、お茶汲み・アシスタント業務を命じてはならない。

六  被告は原告に対し、左の点について文書による謝罪をなせ。

1  加重な労働をさせたこと。

2  昭和六三年一月突き飛ばしたこと。

3  配転・昇格・孤立化等の差別を行い、また、原告の人権を侵害し、苦痛を与えたこと。

4  正当な解雇理由の説明を行わず解雇した旨の掲示を行い、解決を引き延ばし、原告に精神的苦痛を与え、名誉を失墜させたこと。

5  平成二年六月四日、正当な理由の説明を求めた原告を突き飛ばし、打撲等を負わせたこと。

七  被告は「原告を解雇した旨掲示してきたが、無効になったので謝罪する。」との掲示をなせ。

八  被告は原告に対し、九一〇万五二四七円を支払え。

第二事案の概要

一  当事者関係

1  被告は、昭和三三年八月に日本生産性本部に設けられた「消費者教育委員会」を前身として、昭和三六年九月、商品についての調査研究、公正な情報の提供及び啓蒙教育を通じて消費者の利益を保護するとともに、わが国における消費生活の向上に資することを目的に、通商産業省の認可を得て設立された公益法人である。

2  原告は、昭和五二年五月一日、被告に雇用され、同月から昭和五六年三月まで教育室(教育事業等)、同年四月から昭和六〇年三月まで教育相談室(教育事業等)、同年四月から同年一二月まで商品テスト室、昭和六一年一月から昭和六二年三月まで総務室(人事等)、同年四月から昭和六三年一月二〇日まで企画室(読者調査・拡販用見本紙発送等)、同日から同年三月まで国際シンポジュウム開催準備室、同年四月から平成元年一二月七日まで専務理事付にそれぞれ配置された。

二  本件懲戒解雇処分

被告は原告に対し、平成元年一二月七日、原告には左記の就業規則三七条四号「勤務成績が著しく不良なとき」に該当する事由があるとして本件懲戒解雇処分に付した。

1  事務理事の、「月刊誌の記事掲載禁止の法的問題の研究」、「消費税に関する資料収集と調査研究」について早急にまとめて報告せよ、との業務命令に従わず、故意に職務を放棄し、結局時期を失した。

2  再三の交通機関の遅れ等を理由とした遅刻、始末書の不提出、有給休暇を超えての休暇を強行した。

3  連日、「自己の業務の明確化」、「過去の超過勤務手当を支給せよ。」等と発言し、職場環境を乱した。

4  事毎に被告、上司を中傷、非難する発言を繰り返した。

第三争点とこれに対する判断

一  本件解雇処分及び本件懲戒解雇処分の有効性について

1  本件解雇処分について

本件解雇処分の存在については原告のみが主張しているところであり、被告はこの存在を否認しているのであるから、この無効確認を求める原告の主張は確認の利益がない。

2  本件懲戒解雇処分について

証拠(<証拠・人証略>)によると、次の事実を認めることができる。

原告は、前述したとおり、昭和六〇年四月に教育相談室から商品テスト室に配置換えされたところ、この配置換えに不満を抱き、上司に対し反抗的態度を示すようになった。そして、昭和六二年五月には「消費者問題に関する業務担当に専従することを条件に雇用契約したはずなのに、この一年半当該業務から外されている。よって、雇用契約どおりの業務に従事させるように要望する。」との内容証明郵便を、同年一〇月には「消費者教育などの業務を専門的かつ主務的に従事することで雇用契約したが、昭和五五年からの協会不祥事に伴う再建五カ年計画期間に直面し、大幅人員削減の影響で過重な業務分担を余儀なくされ、そのあげく昭和六一年から担当業務範囲のないポストに配置されている。よって、昭和五七年からの残業手当分、上司が負うべき業務を肩代わりさせられた過重労働分、その後の業務分担のない状態における損害を補填されたい。」との内容証明郵便を被告に出した。

原告は、その後も上司の指示に従わず、仕事を拒否するようになり、同僚ともうまくいかなくなったため、被告は、前述したとおり、原告を、昭和六一年一月には総務室、昭和六二年四月には企画室、昭和六三年一月には国際シンポジュウム開催準備室に配置したが、原告の勤務態度に改善が認められないため、昭和六三年四月に専務理事付とし、専務理事岡田功が直接指導することとなった。

岡田専務理事は原告に対し、専務理事付となって以降再三にわたり「月刊誌の記事掲載禁止の法的問題の研究」、「消費税に関する資料収集と調査研究」を早急にまとめて報告するように命じたが、原告はこれに従わず、その後も連日の如く、「自己の業務範囲を明確にせよ。過去の超過勤務手当を支給せよ。」等との発言を繰り返し続けた。岡田専務理事ら上司が原告を注意指導しようとしたが、原告はこれにまったく耳を傾けず、声を張り上げて被告を非難したり、反抗するばかりで、ついに専務理事の命令に従わなかった。

これに加え、原告は、遅刻が多く、また、無断欠勤もあり、上司が始末書の提出を命じても、これを拒否した。

被告は、再三にわたり原告の前記言動について指導をしたが、原告はこれに従わないので、何度も厳重注意処分にしたり、譴責処分にして、原告の反省を促したが、原告の態度は改まらず、本件懲戒解雇処分となった。

右認定した事実によると、本件懲戒解雇処分には前述した処分事由があり、本件懲戒解雇処分が懲戒権を濫用してなされた事情も認められない。

よって、本件懲戒解雇処分は有効であり、この点に関する原告の主張は理由がない。

二  労働契約上の権利存在確認請求、本俸等の給与の支払請求、厚生年金の被保険者資格不喪失措置請求、就労等の請求について(第一の請求の二ないし五について)

本件懲戒解雇処分が有効であることは前述したとおりであるから、右の請求はいずれも理由がない(厚生年金等の資格不喪失措置請求及び就労等の請求は主張自体失当である)。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

三  文書による謝罪請求(第一の請求の六)について

原告が謝罪を求めている謝罪内容は、後述の五の主張事実を原因としていると考えられるところ、これらについてはいずれも理由のないことは後述するとおりであり、他に右請求の根拠となる事実を認めるに足りる証拠もない。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

四  謝罪文掲示請求(第一の請求の七)について

本件懲戒解雇処分が有効であることは前述したとおりである。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

五  金員請求(第一の請求の八、但し、一部請求)について

1  原告は、昭和五六年から昭和五九年までの間、時間外労働手当として二二八万九一四四円及び休日等の時間外労働手当として五五三万四六六六円の賃金債権を有し、原告の労働によって得た被告の事業利益として一一五八万円、原告が教育相談事業職員二名に代わり稼働したことによって被告が得た利益分として二六八九万五二二〇円及び原告が被告のために労働を提供したことにより被告が支払を免れた違約金等として二七〇〇万円の各不当利得返還請求権を有する旨を主張する。

しかし、原告の主張する右請求債権の根拠は明らかでなく、これを認めるに足りる証拠もない。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

2  原告は、昭和六三年一月一九日、専務理事に突き飛ばされ、精神的苦痛を受け、これを慰藉するには一万円が相当であり、この際、原告所有の湯呑茶碗も破損させられ、二七〇〇円相当の損害を被った旨を主張する。

原告は、前述したとおり、昭和六三年一月二〇日、企画室から国際シンポジュウム開催準備室に配置換えとなったが、これに先立つ同月一九日、この配置換えを不満として配置換えに伴う机等の移動作業中、当時の専務理事緑川の指示に従わず机にしがみつき、このやりとりで暴力を受けたと警察当局に通報したことはあった(<証拠・人証略>)。しかし、右の事実以外に、原告主張事実に副ったかの如き原告の供述はにわかには信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

3  原告は、被告は原告を昭和六三年一月一九日から平成元年一月一二日まで他の職員から隔離された小部屋に配置し、業務をも担当させなかったので、原告はこれにより精神的苦痛を受け、これを慰藉するには六三万円が相当である旨の主張をする。

原告は、前述したとおり、昭和六〇年の教育相談室から商品テスト室に配置換えとなったことに不満を抱き、上司に対する反抗的態度を示すようになり、その後も上司の指示に従わず仕事を拒否していたのであって、原告が主張するように被告が原告を他の職員から隔離して業務を担当させなかったことを認めるに足りる証拠はない。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

4  原告は、被告は原告に対し本件懲戒解雇処分をなし、この旨の掲示をなし、いたずらに解決を放置したため、精神的苦痛と減少した名誉に対する代償及びその回復のため原告が発信する挨拶状送付費用として一五万円相当の損害を被った旨を主張する。

本件懲戒解雇処分が有効であることは前述したとおりであり、他に原告主張事実を認めるに足りる証拠もない。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

5  原告は、平成二年六月四日、突き飛ばされ打撲を負ったため、治療費として三万五六七〇円、通院九日分の費用(休業補償)として二二万三〇六七円、精神的苦痛を慰藉するため二三万円相当の各損害を被った旨を主張する。

原告は、本件懲戒解雇処分後もこの不当性を訴えて連日のように被告建物内に押し入る等の言動を繰り返していた。そして、平成二年六月四日も同様に押し入ろうとしたので、岡田専務理事がこれを入り口ドアの内側で阻止していたところ、偶々被告事務局長が外出のためドアを開けたところ、これが外にいた原告に当り、これを捉えて原告は警察当局に右岡田らが暴力行為に及んだ等の告訴をしたことがあった(<証拠略>)。

しかし、右事実以外に、原告主張事実に副ったかの如き原告の供述はにわかには信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 林豊)

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